車をまとう防災拠点

応募対象の概要

この施設の4つの庭は、普段はキッチンカーや移動図書車が訪れ、車と室内空間が一体化した憩いの場となる。非常時は緊急車両や設備車、配給車が訪れ、避難してきた人に料理や物資を提供する避難所内の集会所となる。一般的に切り離して考えられる建物と車のつながりを求め、建物の中に車が入り込める平面形状としている。

フェーズフリーな性質の概要およびアピールポイント

災害時の避難所としてのコミュニティセンターは、どうあるべきかを追及しました。一般的な体育館避難所のような居場所ではなく、コミュニティセンターならではの活動や魅力を災害時にも活かしたいと考え、中庭にさまざまな機能が集まる空間を設けています。車が入り込める中庭は、祝祭空間とも防災拠点ともなりうる点でフェーズフリーです。そして、駅前にあるこの施設は、災害や列車遅延時に帰宅困難者の一時退避場所として使用することもでき、日常時、災害発生時、避難生活時の3フェーズで活用できます。日常時も、非常時も機能をもった車が中庭に入り込むことで、イニシャルコストを抑えたまま、空間の使用方法を変えることができます。
日常時 車をまとう防災拠点(日常時)
建物にキッチンカーや移動図書車を導入することで、カフェテラスや図書室増設のような空間を柔軟に創出できます。これにより、利用者が固定化されやすい課題に対し日常利用者層の拡大が期待でき、災害時には避難のハードルを下げる効果もあります。さらに、高床式によりキッチンカーとの目線が合い、対話が容易になります。
非常時 車をまとう防災拠点(非常時)
電気自動車が来ると充電拠点、トイレなどの設備車が来ると衛生拠点、のように設備の不足状況に応じて柔軟に付与でき、日常の運用費を抑えつつ災害時の需要増加に対応できます。さらに、高床式とすることで、車と建物の段差をなくし昇降や荷物搬入が容易となり車と一体の空間になります。豪雨の際には浸水を避けられます。
カテゴリ
C
被害のレベル
04
プロブレムの種類
活用タイミング
汎用性評価
73 /100点
汎用性

普段利用しているコミュニティセンターの中庭に車が入り、カフェテラスや図書室を増設するなど空間を創出できることから、日常時の「When」と「Why」で非常に高く評価された。災害発生時には、緊急車両や配給車が入り、物資や食料を提供する避難拠点となる。電気自動車が来れば充電拠点として、トイレなどの設備車両が来れば衛生拠点として、さらに設備の不足状況に応じて機能を付与できるため、非常時の「When」および「Why」で評価が高かった。

有効性評価
72 /100点
有効性

コミュニティセンターの中庭に車両が入る仕組みとなっており、さまざまなアイデアで空間の価値を高めることができるため、「日常時のQOL影響能力」で評価された。一時避難所や待機場所として利用される場合は、トイレ設備や炊き出しの機器、備蓄品の搬入などができるため、「非常時のQOL影響能力」の評価が高い。また、車と建物の段差をなくしたことで、アクセスしやすく、浸水対策にもなるため、「機能面デザイン」で評価された。こうした拡張性や機能性が、「新規創生」「価値共有」の評価にもつながっている。

総評

一般的なコミュニティセンターと比較して、車両と建物がつながることにより、必要な機能やサービスが拡張され、食事、図書、トイレ、電源などを提供できるため、「有効性」の評価を大きく高めている。ウッドデッキのオープンなスペースは、日常時にカフェ、ブックテラス、茶室として利用者を増やして賑わいを生み出し、非常時は充電拠点、衛生拠点、医療拠点、配給拠点として活用されるため、利用者、タイミング、対応課題などの面で「汎用性」を高めている。

http://車をまとう防災拠点(総評)
受賞者コメント
避難所の屋外に給水車など多くの車が集結している光景から、避難所としてのコミュニティセンターの在り方を追求した。まず、厳しい屋外の気候や環境における避難者の負担を減らすために車と建物を一体化させた。そして、低費用で災害時にのみ必要な機能を付与する手法を考案した。その機能拡張の自由度の高さにおいてフェーズフリーである。本設計では、学部生活で探求してきた「車と建築の新しい関係」や、かねてより関心がある「防災」を深く探求できた。今回の受賞を励みに今後もフェーズフリーの概念に基づき、研究に取り組みたい。
野中 彩花(九州大学 工学部 建築学科)
受賞者プロフィール
野中 彩花(九州大学 工学部 建築学科)